建設業の方が扱う書類は数が多く、管理や保存期間について悩んでいる方が少なくないはずです。建設業にかかわる書類は、それぞれ法令によって保存期間が規定されています。ここでは建設業者が保存しなければいけない書類の種類や保存期間、書類管理方法などをご紹介します。書類の管理に悩んでいる建設会社の方はぜひ、今後の参考にしてください。
建設会社は、書類や帳簿・図書(図面など)の保存義務が建設業法第40条に定められています。また書類ごとに保存期間も決められています。書類や帳簿・図書は営業所ごとに管理する必要があり、本社で一括管理することはできません。
書類の保存が必要となる主な理由は以下の通りです。
・建設業法違反による罰則回避
・トラブル対策
・労働災害認定の証明
建設業法第55条に「帳簿を備えず、帳簿に記載せず、もしくは帳簿に虚偽の記載をし、または帳簿もしくは図書を保存しなかった者」は、10万円以下の過料を科せられるという罰則規定があります。
帳簿の保存が行われているかを定期的に確認されるわけではありません。しかし、問題が発生したときに帳簿等を保存していなかったために必要書類を提出できない場合、罰則を科せられる可能性があります。そのため建設業者は、いつでも帳簿書類等を提出できるように管理しておくことが大切です。
施主や取引先企業とトラブルが起きたとき、自社の正当性を主張するためには、契約書等の書類を保存しておくことが重要です。裁判等で争う際に、過去のやり取りを証明するために契約書などの書類を提出できなければ、不利に扱われてしまう可能性があります。
そのようなことを避けるためにも、帳簿や図書などは適切な方法で保存しておくことが重要です。
労働災害認定を受ける際に、対象者がその現場で働いていたことを証明するために帳簿などの書類が必要になることがあります。帳簿などの書類が保存されていないと、労働災害認定を受けるのが難しくなってしまう可能性が高くなります。
労働災害は、その場で症状があらわれるものだけではありません。粉塵を吸い込んだことによって起こった肺疾患や、工事現場の騒音による難聴など、しばらく経ってからあらわれる症状もあるのです。そのため建設業法に規定されている期間、帳簿などの書類を保存しておく必要があります。
建築業者に保存が義務付けられている書類の種類は多く、書類ごとに保存期間が異なっています。建設業法や労働安全衛生規則、クレーン等安全規則をはじめ多くの法令にさまざまな書類の保存義務が規定されています。
建設業法に保存義務が定められている書類の種類と保存期間は以下の通りです。
・帳簿:5年
・帳簿の添付書類:5年
・営業に関する図書:10年
営業に関する図書とは、発注者と工事内容についての打ち合わせ記録や完成図、施工体系図などです。保存期間は、建設物が引き渡された日を起算日としてカウントされた日数です。上記の書類は紙類だけでなくデータとしての保存も認められています。
営業に関する図書に該当するのは以下のようなものがあります。
ケース | 対象書類 |
---|---|
全てのケース | 工事内容に関する発注者との打ち合わせ記録(相互に交付したものに限る) |
建設業者が作成した場合又は発注者から受領した場合 | 完成図 |
【公共工事】 下請契約を締結した場合 【公共工事以外】 下請契約の総額が4,000万円(建築一式工事の場合は6,000万円)以上の場合 | 施工体系図 |
引用:「建設業法令遵守ガイドライン(第8版) 帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存」
帳簿の記載事項
帳簿に記載しなければいけない事柄は以下の通りです。
①営業所の代表者の氏名とその者が営業所の代表者になった年月日
②注文者と締結した建設工事の請負契約に関する事項
・請け負った建設工事の名称及び工事現場の所在地
・注文者と請負契約を締結した年月日
・注文者の商号・名称(氏名)、住所、許可番号
・請け負った建設工事の完成を確認するための検査が完了した年月日
・工事目的物を注文者に引き渡した年月日
③発注者(宅地建物取引業者を除く)と締結した住宅を新築する建設工事の請負契約に関する事項
・当該住宅の床面積
・建物瑕疵負担割合(発注者と複数の建設業者の間で請負契約が締結された場合)
・住宅瑕疵担保責任保険法人の名称(資力確保措置を保険により行った場合)
④下請負人と締結した建設工事の下請契約に関する事項
・下請負人に請け負わせた建設工事の名称及び工事現場の所在地
・下請負人と下請契約を締結した年月日
・下請負人の商号・名称、住所、許可番号
・下請負人に請け負わせた建設工事の完成を確認するための検査を完了した年月日
・下請工事の目的物について下請負人から引渡しを受けた年月日
⑤特定建設業者が注文者となって資本金4,000万円未満の法人又は個人である一般建設業者と下請け契約を締結したときは、上記の記載事項に加え、以下の事項
・支払った下請代金の額、支払年月日及び支払手段
・支払手形を交付したとき・・・その手形の金額、交付年月日及び手形の満期
・下請代金の一部を支払ったとき・・・その後の下請代金の残額
・遅延利息を支払ったとき・・・その額及び支払年月日
引用:「建設業法令遵守ガイドライン(第8版) 帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存」
帳簿に添付しなければならない書類
帳簿に添付しなければならない書類を以下にまとめました。
ケース | 添付書類 |
---|---|
全てのケース | ・契約書 |
特定建設業者が注文者となって資本金4,000万円未満の法人又は個人である一般建設業者と下請契約を締結した場合 | ・下請負人に支払った下請代金の額、支払年月日及び支払手段を証明する書類(領収書等)またはその写し |
【公共工事】自社が発注者から直接請負、下請契約を締結した場合 【公共工事以外】下請契約の総額が4,000万円(建築一式工事の場合は6,000万円)以上となる場合 | 工事完成後に施工体制台帳のうち以下に掲げる事項が記載された部分の添付 ・自社が実際に工事現場に置いた主任技術者又は監理技術者の氏名及びその有する主任技術者資格又は監理技術者資格 ・自社が主任技術者又は監理技術者を置いたときは、その者の氏名、その者が管理をつかさどる建設工事の内容及びその有する主任技術者資格 ・下請負人の商号又は名称及び許可番号 ・下請負人に請け負わせた建設工事の内容及び工期 ・下請負人が実際に工事現場に置いた主任技術者の氏名及びその有する主任技術者資格 ・下請負人が主任技術者以外に専門技術者を置いたときは、その者の氏名、その者が管理をつかさどる建設工事の内容及びその有する主任技術者資格 |
引用:「建設業法令遵守ガイドライン(第8版) 帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存」
建築業者に保存が義務付けられている主な書類の種類と保存期間を以下にまとめました。
保存期間 | 書類の種類 |
---|---|
3年 | 安全衛生委員会議事録、特別教育の記録、騒音測定記録、クレーン過負荷制限特例記録/デリック過負荷制限特例記録、クレーン点検記録/デリック点検記録/エレベーター点検記録、移動式クレーン点検記録/簡易リフト点検記録、建設用リフト点検記録、有機溶剤作業環境測定記録、有機溶剤作業環境測定結果の評価記録、鉛作業環境測定記録、鉛作業環境測定結果の評価記録、特定化学物質用局所排気装置/除じん装置/排ガス処理装置/廃液処理装置点検記録/特定化学設備またはその付属設備点検記録、特定化学物質作業環境測定記録、特定化学物質作業環境測定結果の評価記録、酸素欠乏危険作業場所環境測定記録、粉じん用局所排気装置および除じん装置点検記録 |
5年 | 帳簿、帳簿の添付書類、健康診断個人票、有機溶剤健康診断個人票、鉛健康診断個人票、四アルキル鉛健康診断個人票、特定化学物質等健康診断個人票、放射能物質濃度測定記録 |
7年 | 粉じん作業環境測定記録、粉じん作業環境測定結果の評価記録、 |
10年 | 営業に関する図書(発注者との工事内容についての打ち合わせ記録・完成図・施工体系図) |
30年 | 特別管理物質製造、取扱作業記録、電離放射線県個診断個人票 |
膨大な書類を効率的に管理するためのポイントと、自社で書類保管が難しい方のために書類管理システムを利用するメリットをご紹介します。
効率的に書類管理をするためのポイント
効率的に書類を管理するには以下の手順で進めることをおすすめします。
① 案件ごとにファイルにまとめて契約した日付順に並べる
② まとめたファイル内の書類を保存期間別に並べ替える
このように管理しておけば必要書類が見つけやすくなるだけではなく、保存期間を過ぎた書類を処分するときも便利です。
書類管理システムを利用するメリット
書類の多い建設会社にとって書類の管理は簡単ではありません。そこでおすすめするのが、書類を電子化して、電子化された書類データを管理しやすいようにファイリングする、または、データベースシステムを構築することです。データベースシステムを利用するメリットは以下の通りです。
・業務効率の向上
・コスト削減
・セキュリティ対策
書類を電子化し、データベースを構築することで、保管場所に行かなくても必要な書類をすぐに見つけることができます。一方、紙の書類を効率的に管理していたとしても保管場所まで行き手作業で探さなければいけません。
このように書類電子化サービスを利用すれば、場所を選ばずにすぐに必要書類を探せるため、無駄が無くなり業務効率の向上が期待できるでしょう。
書類電子化サービスの利用は、さまざまな点でコスト削減が期待できます。
まず書類保管スペースを確保する必要がなくなるため、空いたスペースを有効活用できます。紙書類の印刷代や輸送代なども削減可能です。また書類を管理していた部署に他の業務をしてもらうこともできます。
書類電子化サービスを利用すれば、バックアップを取っておけば紛失や破損のリスクが低くなります。書類をデータ化すれば劣化を防止できるため、経年劣化の心配はいりません。一方、紙書類では紛失や破損、劣化のリスクが常に伴います。
また閲覧者を限定するためにパスワードを設定すれば、関係者以外は書類を閲覧することができなくなり情報漏洩対策になります。
建設業に義務付けられている書類管理の種類や保存期間、書類電子化サービスなどをご紹介しました。保存が義務付けられている書類の管理は、罰則回避だけでなくさまざまなことを証明するために重要なことです。これを機会に、営業所ごとに適切に書類管理ができているか確認してみましょう。
もし書類の電子化でお悩みの際には、弊社にお気軽にご相談ください。